『鏡花幻想譚 3 月夜遊女の巻』
ブックレビュー ☆5つ
『鏡花幻想譚 3 月夜遊女の巻』 泉 鏡花
坂口安吾を読んだ流れで、幻想小説と言えばやはり鏡花かなと。
とはいうものの、泉鏡花の代表作くらい知ってはいたが、読んだことはなかった。
ちょうどラジオ番組で小川洋子さんが『春昼』を取り上げていて、面白そうだったので『春昼』が収録された、この幻想譚シリーズの3巻を借りてきたのだ。
収録は、月夜遊女、春昼、春昼後刻の3作品。
旧仮名遣いで読みずらく、意味の分かりづらい表現も多かったが、このシリーズの特色である最初に記されたあらすじと主な登場人物の説明、要所となるの文章の注釈に助けられた。
それにしても全体を通して、格調高く流麗な文章に魅了される。
とりわけ、散歩で出会い視線を交わした男と女が夢・幻で心を通わす『春昼』と、その続編の『春昼後刻』の女の美しさの表現が秀逸だ。
「濃い睫毛から瞳を涼しくみひらいたのが、雪舟の筆を紫式部の硯に染めて、濃淡のぼかしをしたようだった。」 春昼より
「日の光射す紫のかげを籠めた俤(おもかげ)は、几帳に宿る月の影、雲の鬢(びんずら)、簪(かんざし)の星、丹花の唇、芙蓉の眦(まなじり)、柳の腰を草に縋って、たんぽぽの花に浮かべるさま、虚空にかかった装いである。」 春昼後刻より
テンポよくリズミカルな文章は心地よく、音読したくなったし、ため息が出るほど美しい表現は朗読を聴いてみたくなった。
『春昼後刻』の結末はずいぶん端折った印象があるが、細かな記述をするより推測に任せることで十分なのだろう。
主人公の記憶と想像による情景描写が、静かな余韻を感じさせる。