『真珠郎』
ブックレビュー ☆4つ
『真珠郎』 横溝 正史
「真珠郎はどこにいる。」
ブクレコで本書のレビューを目にして以来、この一文に魅了されてしまった。
「真珠郎はどこにいる。」から始まり、それに続く耽美的かつ、真珠郎の妖艶さを際立たせる幻想的な情景描写にうっとりしてしまう。
これは主人公 椎名 耕助の視点で語られる、真珠郎という名の美しい少年が引き起こす、猟奇的な連続殺人事件の物語だ。
自分が主人公の目になったような、あるいは映像を見ているような臨場感、そして繰り返される惨劇、そのさまは残虐で凄惨なのだが、描写の美しさのせいか不思議と恐ろしさを感じない。
僕にとって横溝 正史といえば、ぼさぼさ頭をかきむしり、走り回る古谷 一行演じる金田一 耕助のイメージだが、この作品に金田一は出てこない。
まだ金田一というキャラクターが出来る前の、戦前の作品らしい。
その時代だからということがあるのかもしれないが、退廃的な雰囲気が物語を包み込む。
もうひとつ、収録されている短編 『孔雀屏風』 は、遂げられなかった恋が、離れ離れになっていた孔雀の屏風に導かれ3世代を超えて結ばれる、幻想的な物語。
ミステリーだけではない、横溝 正史の美の世界を知ることができた。