『村田エフェンディ滞土録』

ブックレビュー ☆4つ

『村田エフェンディ滞土録』 梨木 香歩

なにやら小難しそうな、堅苦しそうなタイトルだ。
エフェンディとは、土耳古(トルコ)の言葉で学問を修めた人物への敬称で、”先生”のような意味らしい。
物語は、1889年に歴史文化の研究のため訪れた “村田先生のトルコ滞在記” ということになる。
地理にも歴史にもさして興味がなく、知識もない僕にとっては、これが先に読んだ 『家守綺譚』 と繋がりがあると知らなかったら、おそらく読みたいと思わなかったんじゃないかと思う。

『家守綺譚』に話題として2・3回登場する村田と、彼の下宿先の英国人の女主人とトルコ人の下働き、ドイツとギリシャの学者である二人の下宿人との生活。
それは異なる国・文化や宗教の交流の場でもあった。
そこに、下働きに拾われてきた、少ない語彙の中から最適な言葉を最高のタイミングで発する鸚鵡が良い感じで加わる。
さらに、『家守綺譚』 に続く物語、奇妙なエッセンスは外さない。
村田の下宿部屋では牡牛とキツネの神(稲荷)が壁の中を走り回り、山犬の神は人を動かし、火の竜は霊媒師に語り掛け、亡くなったはずの友人が現れる。

戦争を予感させる世界情勢の中、全文を通してのテーマは、ギリシャの学者が村田に言った言葉(本書の表紙の裏にも印刷されている)、
「私は人間だ。およそ人間にかかわることで私に無縁なことは一つもない。」
(古代ローマの劇に出てくる言葉だそうだ)
ということなのかな。
また、最後まで適切な言葉を発する鸚鵡が痛々しく切ない。

そして、梨木さんの文章は素敵だ。
「その一瞬で時が止まっているような、静かな、永遠が滲んでいる。」 P.188
「歴史というのは物に籠る気配や思いの集積なのだよ、結局のところ。」 P.206

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『村田エフェンディ滞土録』 梨木 香歩 著 角川書店

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