『噛みあわない会話と、ある過去について』
ブックレビュー ☆4つ
『噛みあわない会話と、ある過去について』 辻村 深月
タイトル通り、過去に時間を共有した者同士が交わす噛みあわない会話、を共通テーマに据えた4つの短編集。
意味合いは異なるが、それぞれに怖い。
『ナベちゃんのヨメ』
卒業して数年後、大学のサークル仲間のひとりが結婚することになった。
相手の心に寄り添う気持ちの無い思い遣りは、たんなる思い上がりなのかもしれない。
『パッとしない子』
番組の企画で母校の小学校を訪れた国民的アイドルと元担任。
偏執すぎる気もするが、自分の記憶・印象で相手を決めつける横暴さに我慢できなかったのだろう。
記憶は案外あてにならないものなのか。自分に都合よく思い違いしているところはあるのかも。
『ママ・はは』
母親と娘。
あなたのためという自分の価値観の押し付け。
この話では直接の会話は無いが、会話が噛みあわないというよりも思考が相いれない。
1枚の写真の変化から生じる現実は、すべては語られないが想像するとかなり怖い。
主人公は、ちょっと不思議な話というが、これはもう怪談だ。
『早穂とゆかり』
小学校の同級生だった地方誌のライターの取材を受けるカリスマ塾経営者。
『パッとしない子』と似たテイストの話。
「あなた、いつまでも、あの頃の人間関係のままでいるんじゃない?」
放たれた言葉は、研ぎ澄まされた刃のように突き刺さる。
心に負った傷は、容易に消えるものではない。
背筋が凍るような、辛辣な言葉の応酬。
ここに収められた4篇は、幸せな・成功した姿を見せつける弱者だった側の、穏やかな復讐劇なのだと思う。
「あなたとの思い出なんて、私には何の傷ももう残さない」