『マチネの終わりに』

ブックレビュー ☆5つ

『マチネの終わりに』 平野 啓一郎

初めて出会った時から惹かれあった、38歳の天才ギタリストの蒔野 聡史と、2つ年上の国際ジャーナリストの小峰 洋子。
一目惚れするような年齢でもないと思うのだが、交わされる会話のせいか安直な印象は受けない。
駆け引きのない(おそらく駆け引きしている暇はない)、かといって無分別にのめり込むほど浅はかでもない、大人の恋。

2007年から2012年にかけての話しで、その間にふたりが実際に会うのはわずか数回にすぎないのだが、「未来は過去を変えられる、変わってしまう。過去は、それくらい繊細で、感じやすいもの」 という冒頭に出てくる蒔野の言葉が、全編を通して効果的に引用されている。

ふたりの人物設定や、舞台が東京から、バグダッド、パリ、マドリード、台湾、長崎、ニューヨークと広範にわたるストーリーはけっして身近に感じられるものではないのだが、ふたりの周囲の存在やふるまい、また自爆テロ、亡命、リーマン・ショック、震災、被爆といった同時代の問題をもりこむことで、実感や共感あるいは反感を覚えながら物語に強く引き込まれていく。

どんなに大勢の中からでも相手を見つけられる、そんな陳腐とも思えるな恋の力さえ信じたくなってくる。
上質な、というか高級な大人の恋愛小説だと感じた。

難解な印象で敬遠していた作家さんだが、他の作品も読んでみたいと思う。
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『マチネの終わりに』 平野 啓一郎 著 毎日新聞出版

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