『凍りついた香り』

ブックレビュー ☆5つ

『凍りついた香り』 小川 洋子

一緒に暮らし始めて1年の記念日にオリジナルの香水を涼子にプレゼントし、その翌日自殺した調香師の弘之。
弘之の死後、涼子が聞いていた生い立ちや、勤める工房に提出されていた履歴書は偽りだらけだったことがわかる。
”記憶の泉”と名付けられた香水と、工房のフロッピーに残された謎の言葉を頼りに、弘之の過去を尋ねる涼子は、しだいに真実に近づいていく。

最後まで弘之が自殺した理由は明かされないのだが、凍りついた香りは溶けたのだろうか。

数学の天才として理路整然と難問を解き、物事を整理することに異常な執着を示した弘之なのに、周囲に残した自らの経歴はあまりにあやふやだ。
そこなわれることのない記憶と、誰にも語られることのなかった真実。
”記憶の泉”を涼子に託すことで、自らの人生・過去を整理して欲しかったのではなかったか、と思えたりする。

訪れた人の言葉を取り込む孔雀の番人と語らう、幻想的な洞窟のシーンや、様々な事柄が繋がっている感じは、村上 春樹の『ダンス・ダンス・ダンス』を思い起こされた。

これまで読んだ小川さんの中では一番好きな作品だ。

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『凍りついた香り』 小川 洋子 著 幻冬舎

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