『墨のゆらめき』

ブックレビュー ☆4つ

『墨のゆらめき』 三浦 しをん

久しぶりに読んだ三浦 しをんさんの小説は、お得意の「働く人シリーズ」。
って、別にシリーズ化されているわけじゃないけど、三浦さんは職人的なお仕事に従事されている人を取り上げることが多い気がする。

僕が読んだところでいうと、『神去なあなあ日常』:林業、『仏花を得ず』:文楽(人形浄瑠璃)、『船を編む』:辞書編纂、『政と源』:簪(かんざし)、そして今回は書道。
いつものことながら、仕事に取り組む主人公たちの姿勢や思いを通して、自分のなじみのない世界を伺い知ることができるのは楽しい。

今作品は、実直なホテルマンの続(つづき)と奔放な筆耕士(遠田)の交流を通じて、書の魅力が語られる。

冒頭、続が招待状の宛名書きを依頼するため、筆耕士として登録されていたが書の見本と名前しか記載がなく、年齢も性別もわからない遠田書道教室の遠田薫を訪ねるところから物語は始まる。

この時点で、NHKのTV番組『美の壺』で題字を書かれている書家の紫舟さんのような凛とした女性を勝手にイメージした僕は、作務衣姿の筋肉質な男性が現れたことで若干の失望を感じたのだが(なにを期待してたんだ?)、遠山の能天気だが個性を引き出す指導法や、その変幻自在な筆致に魅了されていく続が、書から受けるイメージを語る言葉を通して、読み手の僕も書道に惹かれていった。

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美の壺「心そのもの 禅」の回に出演された紫舟さん(歩く後ろ姿があまりに美しかったのでモノクロにして残してあった)

そして、遠田の半ば強制からではあるが、二人は共同で代書を請け負うことになる。
代書というテーマで言えば、小川 糸さんの『ツバキ文具店』シリーズの方が断然良いのだが、その想像力をいかんなく発揮した突拍子もない文面を思いつく続と、遠山の掛け合いは面白かった。

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『墨のゆらめき』 三浦 しをん 著 新潮社

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