『52ヘルツのクジラたち』
ブックレビュー ☆5つ
『52ヘルツのクジラたち』 町田 そのこ
他のクジラたちよりも高音(52ヘルツ)で歌うクジラがいるという。
周波数が違うため、その歌声は他のクジラには届かず、広大な海で仲間と出会うことが出来ないのだと。
児童虐待・育児放棄・介護・トランスジェンダー・シングルマザー、いろんなところで耳にする言葉だが、その当事者たちの叫びは、52ヘルツで歌うクジラのように、誰の耳にも届かない。
あるいは届いたとしても、聞こえないふりをされてしまう。
その心の叫びを聞けるのは、その痛みを受け止められるのは、同じ苦しみを知っている人だけなのかもしれない。
主人公キナコは、幼いころから母親と義父から虐待を受け、義父が難病で不自由な体となってからは、その介護をひとり背負わされていた。
疲れ果て、自分を失って街を彷徨うキナコを見つけ、救い出してくれたくれたのがアンさんだった。
だが、アンさんもまた、誰にも言えない悩みをかかえていた。
物語の終盤、キナコが2頭のクジラの夢を見るあたりからのくだりは、ややスピリチュアルだが、幻想的で、感動的でもある。
大丈夫、君の声はきっと誰かの心に届く。
声を上げ続ければ、きっと誰かが見つけてくれる。