『月兎耳の家』
ブックレビュー ☆5つ
『月兎耳の家』 稲葉 真弓
一昨年(2014年)、64歳で亡くなった著者の遺作。
「月兎耳の家」(つきとじのいえ) 「風切橋奇譚」 「東京・アンモナイト」 3作品の短編集。
終の棲家として施設に移ることを決めた、古い屋敷に一人暮らす年老いた叔母。
足の不自由な叔母の世話と、家の片づけのためにしばし同居することになった主人公の女性。
荷物とともに心も整理するように語られる叔母の過去。 「月兎耳の家」(2012年)
叔父の依頼で、森へと続く橋のほとりの別荘の管理を任された女性。
橋はあの世とこの世を繋ぐ通り道、女性の役割はあの世から来る人を迎えることだった。 「風切橋奇譚」(2013年)
故郷の島を出て、都会の薄暗い部屋で猫と暮らす女。
再婚した父と離れ、都会を彷徨う男。
居場所を見失っていた二人は降りそそぐ陽の光(希望)を求めて、死期の近い猫を連れ女の島に向かう。 「東京・アンモナイト」(1990年)
前2作は自身の死を意識して書かれたかと思うが、3作目はずっと若いころの未発表作。
むろん印象や意識の違いはあるが、この前読んだ『半島へ』にも通じることで、作者は一貫して家や居場所そして家族にとらわれて作品を書いてきたのかもしれない。
どれも良かったが、もっとも妖しさ漂う 「風切橋奇譚」 が一番好みかな。できればもっと長い物語として読んでみたかった。
僕が稲葉 真弓 という作家を知ったのは、つい最近のこと。
もう彼女の新しい作品を読めないのは、とても残念だ。