『半島へ』
ブックレビュー ☆5つ
『半島へ』 稲葉 真弓
第47回(2011年) 谷崎潤一郎賞 受賞
東京での暮らしを置き去りにして、志摩半島にやってきた60歳前の独り身の女性。
リタイアして移住してきたひとたちの集落のはずれ、森や入り江にも近い場所に建てた小屋で、二十四節気の流れに合わせて日々を送る。
鳥や虫・樹木や草花、空の色の細やかな描写は、著者の実体験が色濃く反映されているのだろう。
森や野の声を聞き、沼に飛ぶ蛍を見ながら俳句をひねる。
ロウソクを灯した竹林での宴。
森や海からの贈り物をいただく生活。
幸福で穏やかな日々、今日も半島佳日。
愛知県出身の作家さんで、いくつかの文学賞も受賞されているようだが先日新聞の書評欄で見るまで存じ上げなかった。
たまたまこの夏に私用で志摩へ行ったこともあり親近感をもって読み始めたが、透明度の高い海、リアス式海岸の切り立った崖、木々の濃い緑など自然の美しさが思い出され、文章の物静かなトーンも心地よかった。