『オールド・テロリスト』
ブックレビュー ☆5つ
『オールド・テロリスト』 村上 龍
社会でなにかと軽視あるいは蔑視されがちな老人だが、戦争から食糧難を経て、高度成長を担い、「殺されもせず、病死も自殺もせず、寝たきりにもならず生きのびた」 老人たちは、そうとうにタフなのだ。
そんな老人たちが、自分を見失った若者を使ってテロを企てる。
老人たちの一人で、物語の中で重要な役割を担う心療内科医アキヅキが、主人公のセキグチにカウンセリングを行う場面は印象的だった。
実際に、『羊たちの沈黙』 のレクター博士の台詞を引用した言葉も使われているが、アキヅキが磨りガラス越しにセキグチと会話するシーンは、レクター博士の独房を訪れたクラリスが鉄格子を挟んで面会する場面を想起させる。
レクター博士がクラリスへの二人称を巧みに変えたように、アキヅキは一人称やセキグチへの敬称を使い分ける。
彼が語る若者分析は、辛辣ではあるが、心地良さを感じる。
テロリストのリーダー、ミツイシは言う。
「自分が自分であり、本当の自分を生きていくしかないという事実は、とても辛い。そのことをごまかすこと、ごまかしてくれる何か、それだけが人気があるし、商売にもなる。わたしたちは、そんなごまかしが許せない。許せない場合は、破壊するしかない」
自分であり続けることが、とても難しい時代。
テロは肯定できないが、日本の現状を憂う老人たちの思いには共感できる。
大作で読むのに疲れたが、久しぶりに村上 龍を堪能できた。
『オールド・テロリスト』 村上 龍 著 文藝春秋