『スーツケースの半分は』

ブックレビュー ☆3つ半

『スーツケースの半分は』 近藤 史恵

スーツケースを持って旅をしたのは、後にも先にも新婚旅行の一度きり。
僕にとっては初めての海外旅行だったし、現役のうちはおそらく長期旅行など行けそうにないので、どうせなら珍しいところにと思ってカリブ海の島国を選んだ。

ツアーはあったが添乗員はいなくて、2度の乗り継ぎ空港と現地でスタッフが対応してくれる、というものだった。
英語圏だったが、決して英語が得意なわけではない。
というか受験の時には、英語さえなければ、と思っていたくらい苦手だ。
ハプニングはそんな人間におこるものだ。
同乗者たちは飛行機から降ろされた荷物を持って次々ロビーへ出ていくのに、僕のスーツケースだけ見あたらない。
小さな飛行場のこと、数分後には僕と嫁だけ取り残された。

I can’t find my baggage? (俺の荷物が見つからないぜ!)

これが、僕が初めて海外で発した英語だ。
幸い、嫁が持っていた『六ヵ国語会話』に載っていたのだ。
っていうか、会話集に載るくらい、これってよくあることなのか?
初めての海外旅行者には、あまりにヘビーな状況だぜ。
近くにいた従業員にスーツケースの色を説明しているときに、心配した現地スタッフ(日本人)が中まで来てくれて、その場の対応はおまかせできたが、結局スーツケースは乗り換え時に別の飛行機に乗せられたらしく、アメリカのどこやら経由で、2日遅れで手元に着いた。

それまでの間、最低限必要なものは現地の人が行く店で買って、なんとかしのいだ。
そんなスタートだったので、その後たいていのことは度胸でこなした。
現地の人はおおむね親切で優しかったしね。

そして、5日後には思い出とお土産が詰まったスーツケースを持って無事帰国した。
残念ながらというか、やはりというか、海外旅行に行く機会はそれ以降ない。

本書は、スーツケースをめぐる9つの短編集。
そのスーツケースを持って旅をすると、幸運に恵まれるらしい。

僕もまたいつか、海外旅行に行きたいと思う。
素敵な幸運のスーツケースを持ってね。

Photo
『スーツケースの半分は』 近藤 史恵 著 祥伝社

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