『じっと手を見る』

ブックレビュー ☆4つ

『じっと手を見る』 窪 美澄

初めて読む窪 美澄さんの小説。
恋愛小説というくくりのようだが、甘さやほろ苦さは無い。

富士山を間近に見る小さな町で、介護士として働く海斗と日奈。
休日にでかけるのは、町に一つのショッピングモール。
ドライブの行先は、樹海の近くの湖。

他に出てくるのは、店がうまくいかず自殺しそこねた父親、奥さんの浮気が原因で離婚した引きこもり、いじめで学校へ行かなくなった中学生、母親から虐待された発達障害の子供、など。
社会的な弱者とか敗者に分類されるような人ばかり。

象徴的に描かれるのは、日奈の住むお化け屋敷のような家の庭。
雑草で荒れた中で蔓を伸ばす朝顔と、そこに支柱を立てる海斗。

ここで描かれる人間関係は、みな朝顔と支柱のよう。
日奈は、自分をよるべないと思う。
誰でもそう思う夜があるんじゃないかと。
だからこそ、支えてくれる人が必要なんだろうな。

最後の1ページで、これが恋愛小説だったことを思い出す。
海斗に声をかける日奈。
やっと自分の気持ちを言葉にできたことに、かすかな希望を感じた。

そういえば、今日発表された直木賞候補に本作品が入っていた。

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『じっと手を見る』 窪 美澄 著 幻冬舎

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