『雪沼とその周辺』
ブックレビュー ☆3つ
『雪沼とその周辺』 堀江 敏幸
第29回 川端康成文学賞 「スタンス・ドット」
第8回 木山捷平文学賞、第40回 谷崎潤一郎賞 「雪沼とその周辺」
小さいながら雪質の良い町営スキー場がある雪沼と、その周辺に住む人々の営みを綴った7つの短編。
廃業することになった5レーンしかないボーリング場とピンの弾ける音、オーナーが亡くなって休業している宿泊もできるレストラン兼料理教室と氷砂糖の甘さ、トラックに轢かれた愛犬と傾いて見える裁断機、死んだ息子と灯すことのないランプの火、スピーカーから流すレコードの音にこだわるCDショップ、自分の料理に自信がもてない中華料理店主、亡くなった友人が遺した日本凧。
無くなるもの、失われつつあるもの、亡くなった人、損なわれたもの、廃れていったもの。
そんなものたちを、音や味や光景や色を通して慈しむように語られる。
こういう話しは嫌いではないのだが、いまひとつ好きにもなれなかった。
全体の雰囲気が静かすぎて、登場人物に体温が感じられなくて、光景が目に浮かびそうで浮かばない、音が聞こえそうで聞こえない、味が伝わりそうで伝わらない、そんなもどかしさを感じた。
ただ、また時間をおいて読めば、もっと好意的な印象をもつんだろうなとは思う。
図書館には単行本しかなかったので、文庫本にあるらしい池澤 夏樹さんの解説が読めなかったのも残念だった。