『一月物語』

ブックレビュー ☆5つ
『一月物語』 平野 啓一郎
妖しくも美しい幻想小説。
明治三十年、奈良県十津川村の往仙岳山中。
いくつかの偶然から、導かれるように山奥に迷い込んだ主人公 井原真拆は、毒蛇に噛まれ意識を失ったところを老僧に助けられる。
寺で療養する真拆は、毎夜同じ女の夢を見ることに。
世間とは隔絶されたような山寺で、真拆はやがて現実と夢と幻の境界を失っていく。
夢の女が実在することを知った真拆は、一旦は山を下りるが、村の旅籠で女の出生の秘密を知り、再び山へ向かう。
しかしそれは、自滅の道を突き進むものだった。
罪深さゆえ眼を合わすことを拒む女と、命を懸けて女に向かう真拆が、互いの思いを吐露する場面は、やや芝居がかってはいるが鬼気迫るものがある。
時代背景に合わせた古典的な表現や旧漢字・古語を多用する文章は格調高い印象だが、いかんせん読み方すらわからない漢字が多くて、前後の文脈から類推して強引に読み進めた。
ただ、内容が難しいわけではないので、慣れればさほど苦になることはなく、いつしか幽玄な世界に引き込まれていく。
僕は単行本が好きなので、単行本を借りて読んだが、貸出期限で返却し、レビューを書くために文庫本を借りてみたら、こちらは丁寧すぎるほどルビが振ってあった。
読み方が分かると、文章が音として頭に入ってくるし、意味も推測しやすいので、読むなら文庫本の方が良いと思う。
「羸瘦(るいそう)した躰」
「沈黙は瀲灔(れんえん)と満ちていた」
いつもは分からない言葉は調べるのだが、これじゃ国語辞典もひけやしないもの。
「激しい眩瞑に襲われた。目の前が、玻璃を砕いて日華の下に散らした如く、熠燿たる光に包まれた。」
もうこんなの、わからない言葉は飛ばして、雰囲気が掴めれたらいいんじゃない、って言ったら著者に失礼かな。
Photo
『一月物語』 平野 啓一郎 著 新潮社

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